店長会議


 大阪府・中央環状線沿いの、カーディーラーや中古車販売店など競合店が数多く立ち並ぶ激戦区に、たった13人で年間28億円も売上げる「ひまわりコーポレーション」という中古車販売専門店がある。同社を率いるのは、社長の豊田昭博氏。痩せ型の「食い倒れ人形おじさん」といったような風貌にきちんと伸びた背筋、そのはきはきとした口調で語られる言葉は商売への熱い情熱に溢れている。
 「我々はお客様から全権を委任された購買代理業であり、そのお客様に対して正直であることは当然のこと」と語る豊田社長の商売のモットーは「正直な商い」。当然「ひまわりコーポレーション」の商売でも同様の姿勢が貫かれており、また実際の業務の中ではその理念を実現するため、元来アイデアマンである豊田社長の工夫で数多くの独創的且つ合理的な取り組みがなされている。
<お客の持つ5つの不安を解消>
 中古車販売店に来店するお客の大多数は店に対して何らかの不信感をもっている。不信感とまではいかない人でも、一つの店に絶対的な信頼を寄せている人は極めて少ないのではないか。その証拠に中古車販売店で車を購入する際、最初の店で購入を即決する人はあまりいない。大抵の人はいくつかの店を回った後、その中でも条件のよい店で商品を購入するというパターンである。その理由として、中古車という商品の持つ特性(高額商品であること・定価がないこと)もあるが、やはり中古車販売業界全体に漂う曖昧さ(価格設定や品質の見極めなど)がお客に対して目に見えない不安感を与えているということがあるのだろう。
 そのような曖昧さをなくし、「正直な商い」という理念のもと徹底的な情報公開でお客の不安・不満を取り除きお客の支持と信頼を勝ち得ているのが「ひまわりコーポレーション」の強さである。では中古車販売店に対してお客が持つ不安とはどのようなものがあるのか。豊田社長の考える5つの不安と、それに対する同社の取り組みは以下のようなものである。



@ 価格に対する不安
商品に付いている価格に対して本当にこれは適正価格なのだろうか?他にもっと安い店があるのではないか?という不安
A 品質に対する不安
商品の保存状態というはっきりとした数字で現れにくいものへの不安

この2つの不安に対して同社では、「自動車購入のガイドブック」という今まで業界内では存在しなかったガイド本を作成しており、商談時には従業員は必ずそのガイドブックを用いる。その中には「評価シート」「加修シート」という項目があり、「評価シート」ではその車の基本性能・内外装・修復歴などを評価・点数化したものを書き込む欄があり、「加修シート」でも同様にその車に関する修復歴を詳細まで記入する。普通中古車販売店では隠したがるような修復歴も全て書き込み全て書き込み全て点数化してゆく。今まで曖昧で、いまいち信用しきれなかった車に対する評価や修復歴の部分を分かり易く数値化し提示することで、お客は価格や品質に対して十分に納得して商品を購入してゆくのである。
 また、同社では「買い取り10シート」という仕組みを導入している。これは自社が一つの商品に対してとっている利益額をお客に公表するという、ちょっとびっくりする様な内容なのだが、仕組みとしてはいたって簡単である。中古車販売店であるから商品の仕入れはお客からという場合が多い。その際、商品買取価格を販売予定額マイナス10万円と一律で設定、当然粗利益額も一律化される。このことをお客に公表することにより、店の価格設定に対して公平感・信頼感が高まった。お客が価格設定に対して疑いをはさむ余地をなくしたというわけだ。他にも販売時の値引きの撤廃や価格表示の際にその車を新車で購入した場合はどの程度費用がかかるか、といった比較対照を設けたりとお客が安心して買い物が出きる状況を作り出すための様々な取り組みがなされている。

B 保証に対する不安
これは商品購入後、品質に問題があった時の返品やトラブル時の対応に対する不安

 この問題に対しても同社は保証書と独自のガイドブックを発行している。納車時より一年間、電球1個からエンジンまで保証するというメーカー保証よりも手厚い保証内容やロードサービスなどの充実と同時に、そのことをガイドブックにし購入前にしっかり説明することでお客の持つ不安感を解消している。また返品に関しても、購入後2週間以内であればいかなる理由であろうとも返品を受け付けるという。例えば男性一人で来店し自動車を購入したとする。そのお客は赤が好きで赤い車を買っていった。しかしその男性の家族は赤が嫌いで3日後に返品にやってきた。このような店側には何の非のない返品理由であっても返品を受け付ける。一見「やりすぎ」とも思える保証内容であるが、実際にはそこまで無理を言うお客は少なく、全体の数パーセントもいないという。逆にそこまでの保証内容を打ち出すことによりお客は感動し、お店に対する信頼感をより高めるという。
 また同店でもう一つ重視しているのが、保証とは別のお客のカーライフに対するアフターフォローだ。同社ではこの部分をアフターではなく、次に自動車を購入してもらうまでのビフォアーサービスとして捕らえている。具体的な取り組みとしては、自動車購入後に店からお客へ出すはがきである。一般的な取り組みではあるが、同社ではその力の入れ方が半端ではない。実にその数年間15枚。その中には社長自らが出すはがきも3枚ふくまれている。ポイントは2つ。内容が自社の売り込みではなく、お客が喜ぶ情報の提供であるということ。自筆の挨拶文を添えることだ。このようなこまめな情報発信・お客とのコミュニケションが同店のリピター率50パーセントという異例の数字に貢献している。
C 店への不安
D 店員への不安
 この二つはお客が車を購入する相手として本当にこの店・この店員でよいのか、店のお客に対する姿勢や販売員の人格などへの不安である。無理な接客でかわされないか?商品購入後にガラッと態度が変わったりしないか?などの思いである。



 この不安はここまでで紹介した「正直な商い」を実現するための取り組みを、一つひとつ実践してゆくことで解消しているが、さらに同社の姿勢が感じられるものとして2つの取り組みを紹介したい。1つはHP上で公開している「社長の熱いメッセージ」と「社員も吼える」のコーナーである。「社長の熱いメッセージ」では豊田社長本人が社員に向けてメッセージを発信しているものをHP上で公開しているのである。内容は経営のこと、利益のこと、技術的なこと等内容は様々だ。一方「社員も吼える」のコーナーでは従業員が仕事上の出来事、私生活のこと、最近考えていること等をきままに書いていて内容も面白い。共に閲覧制限はなく、誰でも自由に見ることが出来る。このコーナーを見た人は、社長や社員の考え方・人柄に直接触れることが出来る。このようなメッセージを積極的に発信してゆくことによって店や店員に対する親しみや信頼感が生まれてくるのだ。
 もう一つは豊田社長独自のアイデアで始めた「見てるだけシール」である。店舗入り口に機械が設置されており、来店はしたが「今日は買い物はせずに見ているだけにしよう」という気分のお客がそこからシールをとり、体のどこかに貼りつけておく。このシールを貼っているお客に対して、店員は挨拶以外声をかけないというものだ。このシールを導入したことにより、お客の望まない接客をすることがなくなり、「無理に買わされるのでは」というお客の不安を見事に取り除いている。このシールの効果はもう一つある。お客が商品を購入したいなと思った瞬間を逃さずに声を掛けることが出来るということだ。貼っていたシールをはがす瞬間がお客の心が購買に向けて動き出した瞬間であり、声をかける一番のタイミングなのだ。お客にとって買う気のない時の接客は売り込み、買いたい時の接客は説明となる。接客が売り込みになってしまっては商品は売れない。最高の瞬間を見逃さず声を掛けることで接客の成功率がアップするとともに、「この店は欲しい時にきっちりと商品の説明をしてくれる店」という安心感が生まれる。



 <好業績を支える人事制度と従業員の能力標準化>
 以上のようにお客の不安・不満を徹底した情報公開と、独自の仕組みで解消し、驚異的な業績をあげている同社であるが、どんなに理念・取り組みが素晴らしくても、従業員の働きがなければ好業績をあげることは出来ない。
 豊田社長は「うちはどんな人が来ても3割5分を打てるようになっている」というが、これは従業員個人の資質に係わらず誰でも平均点以上の仕事が出来るだけの仕組みが出来上がっているということだ。それは営業マン一人当たりの売上高が年間3億円近く、業界平均の7倍という数字にも表れている。
 同社の人材活用の基本的な制度に「一人分社制度」というものがある。その名の通り各営業マンが自分の担当するエリアの経営者になるというものであるが、具体的には、まず自動車の展示場をいくつかのエリアに区切る。そしてこのエリアはAさん、このエリアはBさんといったふうに担当を決めていくのである。担当を持った営業マンは自分の担当エリアに対して仕入れから関与し展示車の見せ方、POP、接客販売、利益管理まで自分の責任で行う。当然一台ごとの損益計算や月次の損益決算書も作成する。
 また「一人分社制度」とあわせて導入することで効果をあげているのが、独自のインセンティブ制度だ。販売プロセスの中の様々な要件を一つひとつ点数化。それを社員の評価の基準としている。
 「一人分社制度」とそれを支えるインセンティブ制度。同社ではこの2つの制度により社員一人ひとりの責任と成果に対する見返りを明確にしている。自分の販売する商品の仕入れ部分から責任を持つことにより、商品に対して愛着と自信を持ち、熱意を持って接客販売に当たれるようになる。
 さらに同社で取り入れているのが、「種まきへの評価」と「連携への評価」である。「一人分社制度」や「成果へのインセンティブ」だけでは業務に弊害がでるであろうという問題、例えば過度の競争による社員同士の連携不足や、目先の売り上げばかり追ってしまうというようなことを解消するためのものだ。「種まきへの評価」は将来の販売に向けた活動を評価するものであり、展示車の洗車や展示車の清掃、お客へのDM発送などにも評価点がつく。また「連携への評価」は従業員同士の連携プレーへの評価である。営業マンが仕入れなどで店を開けているような場合に必要となってくる従業員同士の連携も同社では評価の対象としている。
 このような人事制度で従業員の能力を引き出す一方で、同社では従業員の能力・作業レベルの標準化にも積極的に取り組んでいる。先に紹介した「見てるだけシール」やお客にはがきを出す際の仕組みなどがその代表的な例だ。前述したように、同社では自動車を購入したお客に1年間にわたり15枚のはがきを出すが、そのはがきは取引のあった直後に全てまとめて書いてしまうのだ。まとめて書いたはがきは専用のボックスに出す時期ごとに保管、後は時期が来れば事務員さんが自動的に出していってくれる仕組みだ。この仕組みにより、絶対にはがきを出し忘れるということがなくなる。また取引後、時間がたってから書いたはがきでは心がこもったものを書けないという問題も解消でき、お客にとってはより確実に心のこもったはがきが届くようになる。

 ここまで紹介してきた理念・仕組み・取り組みは全て同社の「行動規則兼マニュアル」とでも言うべき「ひまわりウエイ」に掲載されており、全従業員に配られ、さらには外部に対しても公開している。会社の経営方針から利益のこと、内部マニュアルや社員の給料に関することまで隠さず公開するというこの姿勢こそが、従業員の信頼を得、お客の支持を勝ち取り現在の繁盛に至っている最大の要因であろう。